ペップ・グアルディオラは2016−2017シーズンからマンチェスターシティの監督になりましたが、昨シーズンのCL準決勝アトレティコ・マドリード対バイエルン・ミュンヘン戦の分析が終わってから、マンチェスターシティの分析をしようと思っています。ファイナルゾーン分析:
2015-2016 CL準決勝アトレティコ・マドリード対バイエルン・ミュンヘン(第1戦前半)図1:ファイナルゾーン(相手ゴールラインから30m程度)ファイナルゾーンでの役割:オフェンスライン(主にFW)の選手:敵のマークを避けるために、スペースと時間を有効利用できる場所を探す。攻撃を終わらせる(シュート)か、味方がプレーをしやすいようにスペースを作る。可能な限りボール保持者にパスコースと深さを作り、ボール保持者が前進できるように仕向ける。ボール保持者:もし、可能であれば攻撃を終わらせる(シュート)。優先順位はチームに深さを与えること、前進すること。もし、同じライン(例:MFライン)でボールポゼッションができない場合、突発的な出来事、突然、バスが取られた場合等を想定してプレーをする。ボール保持者と同じラインにいる選手:プレーの前進か、ボールポゼッションのためのパスコースをつくる。空いているスペースを探す。ファイナルゾーンの特徴:・MFラインは数的有利である。・オフェンスライン(FWライン)では数的不利である。・攻撃の選手は時間もスペースもないので非常に速くプレーをする。・目的は(シュートをする)ことである。図2:バイエルン・ミュンヘン選手全員で行う「ライン間」でのプレー(Juego entre líneas)
サッカーは「数的優位」をつくることが難しいスポーツだと思います。そこで、バイエルン・ミュンヘンは選手全員が相手のDFとDFの間、MFとMFの間、DFとMFの間にポジションを取り、相手に「マークをするか、ゾーンに留まるのか」の判断を迷わせるように仕向け、どちらにしても、スペースを作り、ボール保持者にパスコースを作り、「ポジション優位」の状況を作り出しています。図2では、右サイドに相手を引き付けて、左サイドに素早く展開し、数的優位を作り、相手ゴールライン付近から左WGダグラス・コスタのセンターリングからゴールを狙うことを考えたバイエルン・ミュンヘンの前半のプランだと考えます。図3:「ライン間」を極端に狭くしてディフェンスをするアトレティコ・マドリード図3のアトレティコ・マドリードの「ファイナルゾーン」のディフェンス方法は、このチームの代名詞とも言える、DFラインとMFラインとFWラインの距離を極端に狭くして、相手チームにプレーをするスペースを与えず、「ライン間でのプレー」をさせない、かりに相手に「ライン間」でボールを受けられても、すぐにボールを取り戻すことができる距離に選手全員がいます。自陣の低い位置「ファイナルゾーン」に選手全員が入ってディフェンスをします。この方法で守られるとバルサやバイエルン・ミュンヘンといえども、「ファイナルゾーン」でスペースを作ることが非常に難しくなります。このような守備を攻略するには、超ハイスピードでのコンビネーションプレー、スペース作り、状況判断が求めらると思います。アトレティコ・マドリードの「ファイナルゾーン」でのディフェンス方法:・2トップが「ゾーンディフェンス」で、「ファイナルゾーン」の先端中央に立ちます。MFラインにスペースが空いた場合はカバーする動きをします(守備のdesdoblamiento)。・MFラインの4人の選手は「ミックスディフェンス」で、バイエルン・ミュンヘンのMFラインに参加している選手をプレーが途切れるまでマンツーマンマークをします。特に、バイエルン・ミュンヘンのMFラインの選手がFWラインに参加した場合は、その動きにしっかりとマークにつきます。その時、MFラインに空いたスペースをFWラインの2トップのどちらかの選手が埋めます。・DFラインの4人の選手は、両CBは「ゾーンディフェンス」をし、お互いにカバーをしあい、相手のCFWを監視しながら「ファイナルゾーン」の中央を守ります。両SBに注目なのですが、相手のバイエルン・ミュンヘンの両WGがタッチラインいっぱいに広がってポジションを取っているので、「ミックスディフェンス」をして、しっかりとマークをしています。バイエルンは両WG、特に左WGダグラス・コスタにフリーで前を向いた状態でボール渡すことを狙いとしているので、それをさせないようにしています。「プレーの前進」の時にも書きましたが、バイエルン・ミュンヘンは左WGダグラス・コスタにフリーで前を向いた状態でボールを渡すために、主に左SBベルナトが、相手DFラインの右CBヒメネスと右SBファンフランとの間にできた大きなスペースに走りこむことによって、右SBファンフランが、一瞬、ポジションを内側へ絞った瞬間(左SBベルナトにパスが渡るのをふせぐだめ)、左WGダグラス・コスタにパスが渡るようにしています。前半途中から、この左SBベルナトの動きにアトレティコ・マドリード右SMFサウルがマークにつくことで、右SBファンフランがバイエルン・ミュンヘン左WGダグラス・コスタのマークに集中することができるようになりました。図4:バイエルン・ミュンヘンの「ファイナルゾーン」攻略方法(前半11分)左WGダグラス・コスタが「ファイナルゾーン」左タッチライン際で、フリーで前を向いた状態でボールを受け、ゴールラインへ向けて突破を図ります。この時、マークについていたアトレティコ・マドリードの右SBファンフランは、縦への突破のコースを切ろうか、それともグランド内側へ突破するコースを切ろうか躊躇したように見えました。結局、グランド内側への突破するコースを切って、左WGダグラス・コスタをグランド外側へ追い込む守備方法を選択しています。緩急をつけたドリブルで縦への突破をはかる左WGダグラス・コスタ。彼は左利きなので、左WGでプレーをすることが多いように思うかも知れませんが、バルサのメッシのように右WGに配置され、そこから、グランド中央へ切れ込むように突破を図りシュートまで行きます。私が観た試合の多くでは、ダグラス・コスタは右WGでした。この試合では、グランド中央への斜めの突破を図るより、両サイドを広く使い、両サイドからのセンターリングからゴールしようというグアルディオラの狙いが見えます。この一連のプレーで右SMFサウルは、バイエルン・ミュンヘン左SBベルナトがオフェンスラインまで上がってきたので、一瞬マークをしようとしますが、すぐに、右SBファンフランと右CBヒメネスとの間にできた大きなスペースを埋めに入ります。左WGダグラス・コスタが右SBファンフランを振り切り、グラウンダーのセンターリングをします。それを右CBヒメネスがキックミスでグランド中央ゴールエリア付近にボールが上がります。そのゴールエリア右半分にバイエルンの3人が飛び込みます。アトレティコDFラインの右CBヒメネスと左CBサビッチとの間の「ライン間」にCFWレヴァンドフスキが入り、左CBサビッチと左SBフェリペ・ルイスとの間にMFラインから猛然と飛び込んでくる右MFビダル、左SBフェリペ・ルイスの背後に右WGコマンが侵入しています。右MFビダルが走り込んで高い打点から相手のDF左CBサビッチとの競り合いを制して、ヘディングシュートを放ちます。ゴール左隅に決まると思いましたが、ゴールライン上付近で、右CBヒメネスがなんとかクリアーをして、失点を免れます。グアルディオラの作戦:バイエルン・ミュンヘンの狙いとしては、「ファイナルゾーン」グランド右半分において、左WGダグラス・コスタのセンターリングからアトレティコ・マドリードのDFラインで「数的優位」と「ライン間」にポジションを取る「ポジション優位」でゴールしようとしていたのではないかと推測します。図5:アトレティコ・マドリードの素早い対応(前半16分)シメオネの素早い決断と選手の柔軟な対応力:なんとか、失点を免れたアトレティコ・マドリードは、すぐに「ファイナルゾーン」の守備方法を修正します。「ファイナルゾーン」左サイドタッチライン際で左WGダグラス・コスタにボールが渡った場合は、右SBファンフランと右SMFサウルの2人でマークにつきます。右SBファンフランが縦への突破のコースを切り、右SMFサウルがグランド内側への突破のコースを切ります。バイエルン・ミュンヘンの左SBベルナトがオフェンスラインに上がってきますが、その動きには右CBヒメネスがマークにつきます。「ファイナルゾーン」右半分で「数的優位」と「ライン間」にポジションを取る「ポジション優位」を作らせたくないアトレティコ・マドリードは、MFラインの選手(この場合は、左SMFコケ)が、バイエルン・ミュンヘン右WGコマンが右サイドタッチライン際から「ファイナルゾーン」グランド中央、ペナルティエリア付近にポジションを移動し、DFラインとMFラインの間の「ライン間」にポジションを取ったので、左SMFコケがしっかりとその動きについていき、フリーにさせません。グランドを縦に半分にして、どちらかのサイドのDFラインで相手チームであるバイエルン・ミュンヘンに「数的優位」と「ポジション優位」を作らせないように修正しています。左SMFコケがグランド中央ペナルティエリア付近にポジションを移動したので、その左SMFコケいたスペース、MFライン左サイドにFWフェルナンド・トーレスが落ちて、そのスペースを埋めます。バイエルン・ミュンヘンの左WGダグラス・コスタはドリブル突破するコースがないので、グランド内側斜め後ろにドリブルします。ペナルティエリア手前まで上がってきた左CBアラバがフリーなので、パスをして、アラバがペナルティエリアの外から左足でシュートを狙いますが、ゴール右にはずれます。バイエルン・ミュンヘンとしては、「ファイナルゾーン」でのアトレティコ・マドリードの守備がペナルティエリア付近までDFとMFが下がることになります。そのため、ペナルティエリアの手前、グランド中央にスペースが空きやすくなるので、そこからのミドルシュートも狙っています。図6:FWグリズマンのPermuta(入れ替わり。カバーリングに入った人がいたスペースをカバーすること)の動き前半16分過ぎから、バイエルン・ミュンヘンはチャンスらしいチャンスを作ることができなくなりました。なんとか、ペナルティエリアの外からシュートを打つのが精一杯です。後半、グアルディオラは、 バイエルン・ミュンヘンはどのように攻撃方法を変えてくるのでしょうか。前半はグアルディオラの作戦、「ファイナルゾーン」の攻略のアイディアは素晴らしかったと思いますが、シメオネのアトレティコ・マドリードの素早い対応、修正力でゴールすることができないバイエルン・ミュンヘンでした。
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