プレーの前進(Progresar en el juego):ボールの出口を見つけ出し、自陣ハーフライン手前の「ミドルゾーン」までボールを運んだ後、ボールをパスかコンドゥクシオン(ボールをスペースへ運ぶドリブル)を使って「ミドルゾーン」を超えるプレーを「プレーの前進(Progresar en el juego)」と言います。前半、試合開始直後のバイエルンは、アトレティコの「プレーの前進への守備」方法を確認するためにディフェンスラインで右へ左へとパスを回して、アトレティコのプレッシャーのかけ方、ディフェンス方法を確認しています。図1:「プレーの前進」を行う「ミドルゾーン」で、アトレティコの「プレーの前進への守備」方法を確認するバイエルン。右サイドに開いた右CBハビ・マルティネスのところから「ボールの出口」を見つけたバイエルンが、自陣ハーフライン手前の「ミドルゾーン」をどのようにして「プレーの前進」をするのかを分析していきたいと思います。グランド中央から「プレーの前進」をさせたくないアトレティコは、基本的に4−4−2の「ゾーンディフェンス」で「プレーの前進への守備」をしています。アトレティコの2トップがハーフライン付近からプレッシャーをかけます。バイエルンDMFシャビ・アロンソからの展開を阻止したいので、2トップの左グリズマン、右フェルナンド・トーレスは「ゾーンディフェンス」をしていますが、主にフェルナンド・トーレスが縦パスのコースを切りながらシャビ・アロンソのマークをしています。左FWのグリズマンはバイエルンが3バックにしているので、CBアラバと右サイドに開いている右CBハビ・マルティネスにプレッシャーをかける役目があります。左サイドに開いている左SBベルナトにプレッシャーをかけるのは右サイドMFサウルになっています。アトレティコのMFライン4人は「ゾーンディフェンス」でハーフライン10m後ろからディフェンスを始め、グランド内側へのパスと縦パスのコースをケアしています。バイエルンCBアラバがボールを持つと、左右両サイドにスペースができます(アトレティコMF4人がグランド内側へのパスコースを消すため)。バイエルンとしては左WGダグラス・コスタが前を向いた状態でパスを受けることができるようにして、左MFチアゴ・アルカンタラと素早く数的優位を作ることができるようにしたいのではないかと考えます。左サイドにスペースを作り、相手右SBファンフランとバイエルン左WGダグラス・コスタが1対1の局面になるようにしむけています。左サイドに相手ディフェンスが引きつけられた場合は、右WGコマンにパスをすることを目的としています。右SBラームが中にポジションを取ったり、外側に開いたりとスペースを作る動きをして、右WGコマンが前を向いてボールを受けることができるように右SBラームは相手を自分に引きつけています。右MFビダルと右WGコマンで素早く右サイドで数的優位を作ることを心がけています。アトレティコのDFライン4人はハーフラインから25m程度後ろにポジションを取っています。両SB(左SBフェリペ・ルイスと右SBファンフラン)は「ミックスディフェンス」をしており、左WGダグラス・コスタを右SBファンフランが、右WGコマンを左SBフェリペ・ルイスがマークを担当しています。両CB(左CBサビッチと右CBヒメネス)は「ゾーンディフェンス」をしており、2人でCFWレヴァンドフスキを監視しています。図2:プレーの前進①:LCBアラバの「コンドゥクシオン」でハーフラインを超えて前進する。アトレティコ2トップのどちらか1人が必ずバイエルンDMFシャビ・アロンソをマークし、もう1人が両CB(右ハビ・マルティネス、左アラバ)にプレッシャーをかける役目があるので、右CBハビ・マルティネスはグランド中央ハーフライン付近からプレッシャーをかけてくるフェルナンド・トーレスを引きつけて、左CBアラバにパスをします。この時、アラバの前方に大きなスペースがあります。左MFチアゴ・アルカンタラはアトレティコ右サイドMFサウルと右MFガビの間にポジションを取り、前方のスペース、アトレティコのMFラインとDFラインとの間の「ライン間」にポジションを移動します。左MFチアゴ・アルカンタラへのパスを防ぎたいアトレティコは右サイドMFサウルと右MFガビがチアゴ・アルカンタラへのパスコースを消しにさらに中央へとポジションを移動します。バイエルン左WGダグラス・コスタへのパスコースが大きく空きました。アトレティコ右SBファンフランはバイエルン左WGダグラス・コスタを「ミックスディフェンス」しているので、ダグラス・コスタがパスを受けましたが、ファンフランのプレッシャーが厳しくコントールミスをしてボールがタッチラインを割ります。バイエルンはうまく数的優位とスペースを作り「プレーを前進」させましたが、左WGダグラス・コスタに前を向いた状態でパスを受けさせることができませんでした。バイエルンとしてはなんとかして、ダグラス・コスタをマークしているファンフランを取り除き、「ファイナルゾーン(敵ゴールラインから30〜35m前後)」へ侵入する必要があります。図3:プレーの前進②:LCBアラバのコンドゥクシオンからLWGダグラス・コスタをフリーにしたLSBベルナトのドブラールの動き。3バックの右に入っている右CBハビ・マルティネスが、右SBラームとポジションチェンジした右WGコマンに右タッチライン側で縦パスを送ります。この時、DMFシャビ・アロンソはグランド中央左半分にスペースを作るためにラ・ボルピアーナの動きをして、右CBハビ・マルティネスとLCBアラバの間にポジションを取ります。この動きにアトレティコ左FWグリズマンがついていくことで、グランド中央ハーフライン付近にスペースができます。その中央にできたスペースに右MFビダルが移動し、コマンからの横パスを受けます。グランド中央左半分の空いたスペースに後ろからスピードに乗って走ってくる左CBアラバがビダルからのパスを受けコンドゥクシオンをして、自身にマークを引きつけます。左SBベルナトは左CBアラバがボールを受けようとして走り出した瞬間、一緒に前方へ走り出します。左SBベルナトはスピードに乗ってアトレティコのDFライン間(右CBヒメネスと右SBファンフランの間)にできたスペースに走り込みます。そのベルナトの動きを察知した右SBファンフランはバイエルン左WGダグラス・コスタのマークからDFラインの間のスペースに入ってくるベルナトをマークすることに切り替えます。これで左WGダグラス・コスタへのマークが取り除かれ、フリーで前を向いてボールを受けることができました。図4:プレーの前進③A:ラ・ボルピアーナをする2人(ラームとシャビ・アロンソ)右サイドで「ボールの出口」プレーをした右CBハビ・マルティネスは相手ディフェンスを引きつけて、「ミドルゾーン」グランド中央センターサークル付近にいる左CBアラバにパスをします。この時、左サイドに大きなスペースがあり、左SBベルナトも左サイドに開いてアラバからのパスを受けることができるように準備をしています。左CBアラバがボールを保持した瞬間、アトレティコの2トップである左FWグリズマンと右FWフェルナンド・トーレスがハーフライン中央で「ゾーンディフェンス」をしています。フェルナンド・トーレスはセンタースポットにいるDMFシャビ・アロンソへのパスを警戒しマークについています。グランド中央で2対2の数的同数の状況になりました。サッカーのプレー原則として、ディフェンスラインでボールを保持した時には必ず数的優位な状況をつくるというのがあると思います。バイエルンがここでおこなった数的優位を作る方法は、右MFの位置に入っていた右SBラームとDMFシャビ・アロンソが同時に「ラ・ボルピアーナ」の動きをして、ラームがCBアラバと右CBハビ・マルティネスの間、シャビ・アロンソが左SBベルナトとCBアラバの間に入り3対2の数的優位な状況を作りました。この動きをどこかで見たことがあると思い、考えてみると、クライフのドリームチームがこのようなポジションの取り方をしていました。ドリームチームは主に3バックでプレーしていたので、サイドバックは両サイドに大きく開いて、前にポジションを取ります。グランド中央のディフェンスラインでボールを保持するのはCBクーマン1人とその前にボランチのグアルディオラしかいません。ドリームチームは両サイドバックが前に上がったと同時に、右と左のMFがラ・ボルピアーナの動きをしてラームとシャビ・アロンソがやったようにディフェンスラインに入りました。ドリームチームが行っていた動きをバイエルンが同じような形でやっています。アトレティコは「プレーの前進への守備(ミドルゾーン)」では「ゾーンディフェンス」をしてくるので、ラームやシャビ・アロンソのように大きくポジションを移動されるとマークを外すことになります(ゾーンディフェンスは1人1人自身のゾーンをディフェンスしているので)。バイエルンはこのように相手のディフェンス方法に対抗する手段を考え実践しています。図5:プレーの前進③B:3対2の数的有利な状況からCBアラバのコンドゥクシオンで「プレーの前進」をする。グランド中央で数的優位な状況になりました。アトレティコの右FWフェルナンド・トーレスは、「ラ・ボルピアーナ」をしてディフェンスラインに入ったDMFシャビ・アロンソに引きつけられます。この瞬間、アトレティコの2トップであるグリズマンとフェルナンド・トーレスとの間にスペースができました。ボールを保持しているCBアラバはこのスペースを見逃さす、スピードを上げて「コンドゥクシオン」を行い、スペースを突破し、左サイドに空いたスペースへと展開します。左MFチアゴ・アルカンタラにボールが渡ると左SBベルナトが「ドブラール」の動きで、アトレティコのDFラインの右SBファンフランと右CBヒメネスとの間の「ライン間」に走り込みます。この動きに右SBファンフランが一瞬ついていくので、バイエルンの目標である、フリーで前を向いた状態で左WGダグラス・コスタにボールを渡すことに成功します。右サイドで右SBラームがスペースを作り、そのスペースで「ボールの出口」プレーを右CBハビ・マルティネスを起点として行い、右サイドからグランドセンターに位置するCBアラバにパスを送り、アラバの「コンドゥクシオン」で「プレーの前進」を行い、「ミドルゾーン」を越えます。左WGダグラス・コスタをフリーにするために、左SBベルナトがアトレティコのDFライン間(右SBと右CBの間)にポジションを取ることで、左WGダグラス・コスタのマークが取り除かれ、フリーでボールを受けて「ファイナルゾーン」を攻略する準備が整いました。バリエーションとして、左MFチアゴ・アルカンタラが左WGダグラス・コスタをマークしている右SBファンフランを取り除くために自身が左WGのポジションに入りマークを引きつけ、ダグラス・コスタが左サイドでボールをフリーで受けることができるようにする場合もありました。これが「プレーの前進」から「フィナルゾーン」へ入る、この試合のペップ・グアルディオラが思い描いていた形ではないかと考えます。ここから、両WGを起点とした「ファイナルゾーン」の攻略が始まります。次回は後半のバイエルン・ミュンヘンの「プレーの前進」を分析します。※ドブラール:2重にする、2倍にするという意味があります。日本ではオーバーラップとも言いますが、ドブラール(doblar)は、相手DFが自身のゾーンをディフェンスしている時に、そのスペースに2人の攻撃選手が同時に入り、ディフェンスをしている選手にどちらをマークするのか迷わせるようにする方法です。相手チームが「ゾーンディフェンス」をしている時に効果的だと思います。
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